廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(55)

 労働力の購入とは俗に言えば労働者の雇用にほかなりません。この労使関係を商品売買(「労働力」という商品の売買)関係とみることには疑義を呈するむきもありえましょう。
 資本家と労働者とを一種の共同事業者のように考えて、資本家は資金を出資し労働者は労力というかたちで出資をして共同経営するのだ、というようにみなす人々さえあるかもしれません。しかし、資本家と労働者との関係を、一方は資金を他方は労働を出資する共同経営の関係だとすることは、理論的には無理です。資本家は、原料その他の資本材を売買契約で購入するのと同様、いわゆる労働契約にもとづいて労働力を購入するわけで、共同事業契約を結ぶわけではありません。労資関係は、たしかに、さしあたり賃金契約という流通(売買契約)場面では、「労働力」商品の売買関係だと言えます。