廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(52)

 貨幣とはそもそも何であるのかについては、いろいろな学説があります。が、マルクスは商品貨幣説(貨幣とは格別な機能を担う一種の商品であるとする説)の立場を採ります。「貨幣」といえば、人々の日常意識においては、価値尺度機能・流通手段機能・蓄蔵手段機能をもつばかりでなく、まるでそれ自身、”自己増殖”機能をもっているかのように思われがちです。がしかし、貨幣がそれ自身で利得や利子を生む自己増殖力をもっているはずもありません。一見そのように思えるとすればそれは経済的諸活動の社会的関係の物象化・物性化によるものにほかなりません。