廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(49)

 マルクス本人に語らせましょう。「例えば−−と『資本論』でも有名な価値形態論の個所で明言されております−−上衣が価値物としてリンネルに等置されることによって、上衣に潜んでいる労働がリンネルに潜んでいる労働に等置される。この等置が、裁縫労働を、織布労働と縫労働という異種の両労働における現実に相等しいもの、人間労働〔抽象的人間労働〕という両者に共通な性格へと事実的に〔つまり、単なる頭の中での観念的/概念的な操作としてではなく〕還元するのである。こういう廻り道をして、そこではじめて織布労働もまた……抽象的人間労働であるということが言表されているのである。異種の商品どうしの等価表現のみが、価値を形成する労働の特殊な性格を前面にもたらす。というのも、等価表現は、異種の諸商品に潜んでいる異種の諸労働を、それらに共通なものに、つまり、人間労働一般〔抽象的人間労働〕に事実的に還元するからである」。