廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(48)

「人々は、彼らの異種の生産物どうしを交換において等価とすることで、彼らのさまざまな労働どうしを人間労働〔抽象的人間労働〕として等置するのである」。価値の”実体”をなす対象化された「抽象的人間労働」の量なるものは、直接に知ることはできません。「生産物に対象化されている労働量」というのは、例えば綿織物の場合、糸を紡ぐのに必要な労働量、原料である棉花を生産するのに必要な農業労働の量、それに機械の損耗分に相当する労働量、こういったものの総計なのですから、とうてい直接的に測定することは不可能です。商品が交換的に等置されることから、逆算して、それら両商品に対象化されている労働量が等量であると事後的に認定されるのです。