廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(47)

 マルクスが抽象的人間労働というさいの抽象化は、単なる概念的抽象化ではなく、例えば「二日分の農業労働が一日分の裁縫労働に等しいとして還元・換算」されるといった仕方での「単純労働」の措定と関係します。マルクスは、単なる理論的抽象ではなく「日々現実におこなわれている抽象」、「生産者たちの背後の社会的過程を通じておこなわれるところの、さまざまな労働種類の還元・換算」に立脚して議論を立てているのです。
 この「還元・換算」というのは、市場における価格メカニズム、もう少し原理的に言えば、流通・交換過程における等置メカニズムを介しておこなわれるのです。それは論理の逆転ではないのか? マルクスみずから「逆である」と明言しております。