廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(44)

 さて、使用価値、つまり、各商品がもっている有用性、言い換えると、人間の具体的な一定欲望を充足させる性質は、文化的に規定されますから、天然自然の性質というわけではありません。がしかし、価値との対比においては、一種の自然的な性質として扱うことも許されるでしょう。
 マルクスは、商品体の自然的諸属性は使用価値の在り方を決めるにしても、価値そのものは自然的属性ではないことを説き、「価値対象性には自然的素材の一分子だに入り込んでいない」こと、価値対象性はむしろ「幽霊のような対象性」であると述べております。価値対象性とは、商品体に内在する自然的実質性ではなく、「純粋に社会的」な規定性なのです。