廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(40)

資本論』の内容に入る前に、物象化論ということについて一言しておいたほうが、後の話がわかりやすくなるかもしれません。
 物象化論は後期マルクスにおける枢要な概念装置で、文典中における用語法に鑑みますと、人と人との社会的関係が、日常的意識においては”物と物との関係”ないし”物の見えている性質”ないしはまた”自立的な物象”の相で現象する事態、このような事態が物象化という言葉で表されていることまでは容易に認められます。
 マルクスが「人と人との関係」が、物象どうしの関係や物象的性質や物象的実体の相で映現すると言うとき、−−裏返していえば、人々の眼に、物象的実体・物象的性質・物象的関係の相で”見えて”いるしかじかのものは、実は、人々のかくかくの社会的関係が”屈折”して仮現しているのであることを指摘してみせるとき、−−そこでの、「人と人との関係」には、先にも申しましたように、事物的契機も介在しております。そのさい、人というのは、もちろん単なる肉体的存在の謂いではなく、”意識をそなえ”しかも”行動する””主体”なのです。したがって、人どうしの単なる認知的・意識的関係ではなく、実践的な間主体的関係が問題であること、このことが銘記されねばなりません。