廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(37)

 第二章 『資本論』で言いたかったこと


 第一節 物象化された経済の構造的分析


 近代市民社会における人間関係は、古代奴隷制社会や中世封建制社会の場合と違って、自由(自律的)で平等(対等的)な諸個人の、友愛的とまでは言いかねるにしても、互酬的な(互いに相手に利益を与えあう)関係であるとされます。
 現実の近代社会は、役人・裁判官・軍人・警察官といった成員も存在します。−−僧侶・医師・芸能人といったものは、一種の自営サービス業者という扱いにできるとしても、文武の官員は”市民”として扱うのに無理がありそうです。が、これはしばらく棚上げにしておきましょう。−−近代社会にはまた賃労働者が存在します。賃労働者が存在するということは、自営の農・工・商業者だけでなく、つまり、家族労働だけで営んでいるいわゆる自営市民のほかに、他人を雇用して労働に従事させる者、すなわち、実業資本家も存在するということを意味します。そして、近代社会が産業的に発展するにつれて、賃労働者が人口の大多数を占めるほど増大するのが歴史的現実です。