廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(23)

 政治的統治機構・機関は、階級的利害その他、社会成員たちの利害的対立抗争から超然としているという建前で、紛争を”調停””抑止”し”共同利害”の保全や秩序の保持にあたります。が、この「共同利害」の保全ということが巧者(くせもの)です。
 なるほど、被支配階級の成員といえども、彼が体制内在的に生活するかぎり、経済的・政治的・社会的な秩序が維持され、体制内的”ルール”が守られ、それが円滑に運行していること、それが彼にとって”利益”だと一応は言えます。しかい、それは現行の「支配−被支配」の体制の維持を意味するものにほかなりません。マルクスは、労働者が賃労働者であるかぎり、「資本−賃労働」関係が存在しなければ生きていけないというかぎりで、あくまでこのかぎりでは、「資本−賃労働」関係の存続が労働者にとっても利益であることを認めます(『賃労働と資本』その他)。だが、それは、高利ででも借金せざるをえない者にとって高利貸制度の存続が利益であるというのと同断の意味でのみそうであるにすぎない、ことを併せて指摘します。