廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(19)

 政治的支配秩序というものは、下部構造的経済秩序、生産関係の編制に見合う階級的支配秩序を、保全・補強するという域のものでしかありません。但し、この政治的強力による掣肘がなければ、経済関係の内在的矛盾が階級的対立抗争となって激発し、政治経済社会体制を”安定”的に維持できないわけですから、政治的上部構造の存在が階級社会の下部構造にとって不可欠であり、重要であることは勿論です。
 上部構造、とりわけ、社会的意識諸形態がいかに不均質的・多元的であるにせよ、そしていかに内部的軋轢や抗争を孕んでいるにせよ、それは体制的枠組みの埒内での立場的対立や不協和という域をいくばくも超えるものではありません。したがって、そういう不協和・軋轢・諸派分立を内蔵する上部構造が、全体としては、体制維持機能装置として効らきます。マルクス・エンゲルスはこの事実とその機制を洞見しておりました。