廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(18)

 マルクスの謂う経済的下部構造は、先行イギリスの市民社会論の場合とは違って、同市民的な水平的秩序ではなく、「地主−小作」関係とか「資本−賃労働」関係とかいった生産関係、したがって、階級的関係を含みます。
 この下部構造次元における階級的関係は、それ自身で(つまり、ことさらな政治的・法制的な強力が加わることなしにも)経済的論理において、支配と隷属の不自由・不平等な関係になっております。いわゆる”市民社会”的な経済的秩序における、経済の論理での支配・服属、その構造と機制を正視・剔抉(てつけつ)したところに、マルクス社会観の画期性が認められます。