廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(14)

 マルクスは、抽象的に、存在観レヴェルで社会観を更新したという域に留ってはおりません。それは、社会構造論の次元においても新しい見地と地歩を確立しております。
 マルクスは社会の現象的編制をどう観たのか? 彼も、政治的・法制的・宗教的、等の編制秩序の基礎に、経済の論理による秩序構造を観ます。が、その「経済」というのは、第一義的には、流通や消費ではなく、「生産」であり、彼は生産の場での編制と、そこでの構造的論理にまずは留目します。
 経済の場面に定位して社会を観じるといっても、先行者たちは、独立自営の市民たちの等価交換の体系ということで、社会が自由・平等な実体的諸個人を成員として成り立っているというイメージで出発しました。しかしマルクスは、こういうイメージでは、ないしはそれをモデルにしたのでは、社会の実情に合わないことを洞見し、別様の社会構造観を立てたのです。