廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(13)

 マルクスは、初期の『経哲手稿』においていちはやく「なにはともあれ”社会”なるものを個人に対立させて固定化することは避けねばならない。個人が社会的存在なのである」と述べております。(Neue MEGA)
 『経済学批判要綱』のなかで「社会とは諸個人が相互に関わり合っている諸関連(Beziehungen)、諸関係(Verhältnisse)の総体である」(Neue MEGA)と定義されております。
 マルクスとしては、一方の、社会なるものを以って自存する実体と視る立場も、他方の、社会なるものを諸個人から成り立つ集合体の仮名にすぎないとする立場も、両刀的に斬り棄て、関係主義的存在観の見地から、「諸個人が相互に関わり合っている諸関連・諸関係」ということで「社会」を定義しているわけです。
 マルクスの社会観は、存在論的次元で言えば、従来の実体主義的存在感に基く社会理論の地平を超克して、「関係主義的社会観」を展いたことに画期的な意義があると申せましょう。