廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(12)

 第二節 社会観をどのように更新したか


 古代や中世における”社会”観、その圧倒的主潮は”社会”有機体観でした。そこでは、家族や諸個人といったものは有機体のたかだか分肢的な存在と見做され、社会有機体なるものが固有の実体的存在と観ぜられます。−−近代的社会観においては、基調的には、自我的主体たる諸個人こそが実体的存在であり、社会と呼ばれるものは、たかだか、諸個人によって第二次的に形成される集合体にすぎない。社会とは名ばかりの存在、唯名的・名目的な”存在”以上のものではないと観ずるのが主流です。
 マルクスは、社会なるものを固有の実体と観ずる有機体論流の「社会実在論」も、社会とは名目的仮在にすぎないと観ずる「社会唯名論」も、両方とも斥け、新しい社会観を提示しました。