廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(11)

 マルクスの人間観といえば、『フォイエルバッハに関するテーゼ』中の「人間的本質(ヴェーゼン)は、その現実態においては、社会的諸関係の総体(アンサンブル)である」という言葉が特に有名です。ここに「社会的諸関係」というのは、単なる人間どうしの関係ではなく、「対自然的かつ相互関係的な諸関係」を含意するものと解されます。
 人間は、他個体と外面的に社会関係を結ぶといった域に留まるものではありません。社会的諸関係を内面化・内具化している存在です。つまり、対自然的かつ相互間的な関係を”内なる”対自的本質とし、他の動物どもとは違ってそれを「対自的(フュア・ジッヒ)に」(すなわち、意識性をともなって)生きる存在なのです。