廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(8)

 マルクス・エンゲルスも、人間がいわゆる精神的文化を発展させている事実を無視したのではなく、それの在り方を説明しようとしたのだということ、このことは銘記しておきたいと念います。
 人間生活の存在(ありかた)が人間の、「意識」(虚偽意識や“無意識”をも含む広義の意識)を決定する(『経済学批判』の序文)という命題(テーゼ)は、次のような了解にもとづくものです。
「意識とは意識された存在以外のなにものでもありえない。そして、人間の存在とは彼らの現実的生活過程の謂いである」。「すべてのイデオロギーにおいて、人間ならびに彼らの諸関係が、……逆立ちして現象するとすれば、この現われは人々の歴史的な生活過程から発出するものであって、それは網膜上の倒立像が直接的な肉体的過程に根差しているのと類比的である」(『ド・イデ』)。