廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(7)

 マルクス・エンゲルスは、自然と歴史とを、また、本然と文化とを、近代哲学流の仕方で二元的に分断・対立させることを原理的な次元では肯んじませんけれど、人間が生産手段や生産方法を文化的に発明・創始し、且つ、それらを世代的に継続・進展させること、そのことと相即的に、消費手段や消費方法をも天然本然のものから文化的に再形成されたものへと転換し向上させていること、この特異な在り方に着目します。人間(ヒト)という動物の生活・生存の在り方が、人間が生産的労働活動を営なむことに支えられて、対自然関係の側面でも間(かん)個体関係の側面でも特異的に編制されていること、この物質的生活の態勢に基づいていわゆる意識的活動の在り方や精神文化と呼ばれるものの在り方も歴史的に成立・発展すること、彼らはこの基礎事実に着眼して人間を観じた次第なのです。