「空想より科学へ」(22)

 三、プロレタリア革命。矛盾の解決、すなわち、プロレタリアートは公共的権力を掌握し、この権力によってブルジョアジーの手からはなれ落ちつつある社会的生産手段を公共所有物に転化する。この行動によって、プロレタリアートは、これまで生産手段がもっていた資本という性質から生産手段を解放し、生産手段の社会的性質に自己を貫徹すべき完全な自由を与える。かくして今やあらかじめ立てた計画に従った社会的生産が可能となる。生産の発展は、種々の社会階級がこれ以上存続することを時代錯誤にする。社会的生産の無政府状態が消滅するにつれて国家の政治権力も衰える。人間はついに人間に特有の社会的組織の主人になったわけであって、これにより、また自然の主人となり、自分自身の主人となる。−−要するに自由となる。
 この解放事業をなしとげること、これが近代プロレタリアートの歴史的使命である。この事業の歴史的条件とその性質そのものとを探求し、以ってこれを遂行する使命をもつ今日の被抑圧階級に、彼ら自身の行動の条件および性質を意識させること、これがプロレタリア運動の理論的表現である科学的社会主義の任務である。
 本文、おわり。


 この後に、「英語版への序文(史的唯物論について)(1892年)」が収録されている。デューリングについて、ベーコンにはじまる唯物論の流れと史的唯物論について、そして唯物論的に歴史と宗教、そして労働運動について述べている。


 エンゲルスの「空想より科学へ」はマルクス主義思想の要点であり集大成である。


 エンゲルス著・大内兵衛訳「空想より科学へ −社会主義の発展−」(岩波文庫