廣松渉「今こそマルクスを読み返す」(58)

 <産業資本家は如何にして剰余価値を取得するか>(その1)


 スタートの場面に話をもどします。我が資本家の卵氏は、工場設備など、および、原材料、それにまた、労働賃金、これらに資金を当てたのでした。剰余価値搾取論の構図を見え易くするために、ここでは極端に単純化したモデルを想定してひとまず論じたいと思います。
 我が資本家氏は、固定資本に二億円、原料類に一億円を投資し、四十人の労働者を年間賃金総額一億円で雇ったものとしましょう。日当八千円の賃金ということにします。この八千円は一人の労働者の一生活日の生計費であり、その生活財を生産するのに抽象的人間労働四時間分を要するものとします。社会的・平均的な標準化された人間労働は四時間で八千円の価値に対象化されるということをそれは意味します。
 資本家の雇用した労働者は、労働の生産性、労働の強度など、いずれも社会的・平均的な標準的労働者であるものとし、一日八時間の労働に従事するものとします。そして、この資本家氏の経営事業では、全資本が一期一年回で回転するものとしましょう。