「経済学批判」(39)

 b 貨幣の通流 つづき
 流通する商品の総価格が騰貴しても、その騰貴の割合が貨幣通流の速度の増大よりも小さければ、流通手段の総量は減少するであろう。逆に、流通速度が、流通する商品総量の総価格よりも大きな割合で減少すれば、流通手段の総量は増加するであろう。価格が一般的に下落するとともに流通手段の量が増加し、価格が一般的に騰貴するとともに流通手段の量が減少することは、商品価格の歴史のうえでもっともよく確認されている現象のひとつである。だが、価格の水準の騰貴をもたらし、しかも同時に貨幣の通流速度の水準をなおいっそうたかめる諸原因、およびその反対の運動をもたらす諸原因は、単純流通の考察の範囲には属さない。一例としてあげられることは、とりわけ、信用のさかんな時代には、貨幣流通の速度のほうが商品の価格よりも急速に増大するのに、信用の減退とともに、商品の価格のほうが流通の速度よりも緩慢に下落するということである。単純な貨幣流通の表面的、形式的な性格は、まさにつぎの点に、すなわち、流通手段の数を規定するすべての要因、つまり流通する商品の総量、価格、価格の騰落、同時におこなわれる購買と販売の数、貨幣流通の速度、のような要因が、商品世界の変態の過程に依存し、この過程がさらに、生産様式の全性格、人口数量、都市と農村との関係、運輸手段の発達、分業の大小、信用等々、要するにすべての単純な貨幣流通の外部にあってただそれに反映するにすぎない諸事情に依存するということに示されている。
 流通の速度が前提されているとすれば、流通手段の量は、簡単に商品の価格によって規定される。だから通流する貨幣が増減するから、価格が騰落するのではなくて、価格が騰落するから、通流する貨幣が増減するのである。これはもっとも重要な経済法則のひとつであって、商品価格の歴史によってくわしくこのことの証明をしたことは、おそらくリカアド以後のイギリス経済学の唯一の功績をなすものであろう。いまや経験のしめすところによれば、ある一定の国の金属流通の水準、つまり流通する金または銀の量は、たしかに一時的な干満に、しかも多くのばあい非常にはげしい干満にさらされてはいるが、しかし全体として長期にわたってみれば、同一不変であって、平均水準からの乖離は、ただかすかな動揺としてつづくだけであるが、この現象は、流通する貨幣の総量を規定するもろもろの事情の対立的な性質から簡単に説明される。これらの事情が同時にかわることは、それらの作用を中和させ、すべてをもとどおりにさせておくのである。