「経済学・哲学草稿」(42)

 [四] 「貨幣」
 貨幣は、すべてのものを買うという属性をもち、すべての対象を我がものにするという属性をもっているから、したがって貨幣は優れた意味における対象である。貨幣の属性の普遍性は、それの本質が全能だということである。だから貨幣は全能な存在として通用する……貨幣は人間の欲求と対象とのあいだの、人間の生活と生活手段とのあいだの取りもち役である。しかし、私に私の生活を媒介してくれるものは、また私にたいする他の人間の現存をも私に媒介してくれる。それは私にとっては他の人間なのである。
 
 ゲーテファウスト」、シェイクスピアアテネのタイモン」からの引用。
 ゲーテの章句の解釈。貨幣が買うことのできるもの、それは、貨幣そのものの所有者たる私である。貨幣の力が大きければ、それだけ私の力も大きい。貨幣の諸属性は私の−−貨幣所有者の−−諸属性であり、本質諸力である。この私は、人間的心情が渇望する一切のことを、貨幣を通じてなしうるのだから、私は一切の人間的能力を所持しているのではない! こうして私の貨幣は、私の一切の無能力をその反対のものに変ずるのではないか。
 シェイクスピア。(1) 貨幣は目に見える神であり、一切の人間的なまた自然的な諸属性をその反対のものへと変ずるものであり、諸事物の全般的な倒錯と転倒とである。それはできないことごとを兄弟のように親しくする。 (2) 貨幣は一般的な娼婦であり、人間と諸国民との一般的な取りもち役である。
 貨幣は人類の外化された能力である。