「空想より科学へ」(1)

hanadahidejirou2006-05-30

 岩波文庫版、エンゲルス著、大内兵衛訳「空想より科学へ −社会主義の発展−」を読む。この訳は1946年9月第1刷発行で、読んでいくのは1973年8月発行の第45刷、定価★★である。


 一 空想的社会主義
 近代社会主義は、一方では今日の社会にある有産者と無産者、資本化と賃金労働者の階級対立を、他方では生産における無政府状態をみた上で生まれたものである。しかしその理論の形からいえば、ルソーら十八世紀の偉大なフランス啓蒙主義者たちがたてた原理を一層おしすすめ、首尾一貫したものである。このフランスの偉人たちは外的権威を一切認めず、宗教、自然観、社会、国家制度、一切のものをなさけ容赦なく批判した。理性が、一切のものに対する唯一の尺度としてあてがわれた。ヘーゲルはいう、今や黎明が近づき、理性の王国がはじまろうとしている、永遠の真理、永遠の正義、自然に基づく平等、譲り渡すことのできない人権が現われねばならぬと。
 しかし、理性の王国というのは実は理想化されたブルジョアジーの王国に外ならず、理性国家もルソーの社会契約も、ブルジョア民主主義共和国として実現できた。ブルジョアジーの代表者たちは、自分たちは特殊な階級の代表者ではなく、苦悩する全人類の代表者だという主張したが、資本主義は賃労働なしに存在することができず、貴族との闘争においては、ブルジョアジーが当時の労働する種々な階級の利益を代表するという主張は大体において正しかった。ブルジョアの大運動がおこるたびに、近代的プロレタリアートの未発達な先駆者ともいうべき階級の、独立の、運動が必ずそのうちに顔を出していた。こうした未成熟な階級の革命的叛乱と並んで、それにふさわしい理論的表現が現われた。そして三人の偉大な空想家があらわれた。サン・シモン、フーリエオーウェンである。