”Through the Gates of the Silver Key”(40)その2

 カーターは眩暈に襲われ、見当識を失ったという感じが何千倍にも強まった。不思議な光は漆黒の闇に闇を重ねたような、窮極の黯黒の性質をもっているように思える一方、<古のものども>のまわり、その擬似六角形の台座近くに、目眩くような遼遠たる距離の広がる気配がたちこめた。やがてカーターは、測り知れない深みに投げいれられ、ぬくもりのある馨しい波が顔にひたひたとあたるのを感じた。まるで薔薇の香のする酷熱の海、泡だつ波が焼きつく真鍮の岸に寄せては砕ける酩酊の葡萄酒の海に、わが身が浮かんでいるかのようだった。遥か遠くの岸を洗う泡だつ海の茫洋たる広がりを半ば目にしたとき、カーターはこのうえもない恐怖に震えあがった。しかしつかのまの沈黙が破れた−−揺れるうねりが物理的な音でも人工的な言葉でもない言語で、カーターに話しかけていた。
「<真実の人>は善悪を超越せり」声ではない声が抑揚をつけていった。「<真実の人>は<全にして一なるもの>のもとに進みたり。<真実の人>は<幻影>こそ<唯一無二の現実>にして、<物質>こそ<大いなる詐欺師>なることを学びたり。