「ヨコハマメリー」

hanadahidejirou2006-07-02

 中村高寛監督「ヨコハマメリー」 全編キネコ。
 かつてザキで映画を観ていた頃たまに見かけた、ハマのメリーさん。白いフリフリドレスを着た白塗りの伝説の老娼婦の姿はいまでも目に焼き付いている。だが、そういうすれ違うだけの人間にとって、メリーさんもザキの単なる風景でしかなかった。
 いまはハマにいないメリーさんの過去を追ってフィルムでなくテープを回したその意図がよく分からない。元男娼のシャンソン歌手永登元次郎とメリーさんの交流をモチーフとしたのなら、それはそれでよいのだが、メリーさんを取巻くその他の人々のコメントが長すぎ、このシャシンが目指したメリーさんのイメージがぼやけてくる。特に山崎洋子に語らせた「メリーさんの子供たち」はまったくの創作で、山崎洋子のせいではないのだが、話がおかしな方へ行ってしまう。
 伝説のメリーさんの伝説部分を固めることには成功したと言えるだろう。語り手として登場する人物たちがみな饒舌なだけに、そして彼らは彼らの知る事実を語っているのだから、さらにビデオは回しっぱなしにするものだから、メリーさんの印象がつくり上げられていく。だが、このシャシンでもっとも大切なことは、メリーさんと元次郎の交流で、ラスト、癌に冒され入院生活をしている元次郎がメリーさんの郷里の老人ホームを歌手として慰問するシーンにそれが凝縮されている。なんと、誰もが初めて見るメリーさんの素顔がそこにあろうとは。ここに伝説が伝説であったことが、そしてそれが伝説として終わることが描かれていて、見るものの胸を打つ。